生きているキセキ 〜The miracle of being alive〜

私と娘、息子、そして天国の夫のハナシ。

回顧録2012.4.27 ゴール

この日は、私のFEC一週間後の血液検査だった。

その後、お父さんのところへ。


主治医に言われた。

お父さんはもう、一年以上寝たきりの為、体力は確実に落ちて来ているし心臓も弱って来る。寝たきりと言うことは、常に体が水平な訳だから、血栓が出来やすい。エコノミークラス症候群と同じような事が起こる危険もある。はっきり言ってこれ以上の回復はかなりきびしい。

寝たきりが長くなればなるほど、状態は悪くなるものだ。


だから私は尚更、寝たきりにして欲しくなかった。日に1時間でも車椅子に座らせてもらえるだけでもいいと思った。

私はリハビリをして欲しいと伝えると、やってはみるけど、効果がなければやめます。とはっきりと言われた。

あと、この病院では前の病院のようには手が行き届きません、それは分かってください。とも言われた。

そして最後に、

『奥さんはご主人のゴールをどう考えてますか?希望や期待ではなくゴールです』

私は言葉に詰まった。

頭に浮かぶのは、希望や期待ばかり。

そして、

『現状維持です。今のこの状態がゴールだと思います』

と本心ではない事を答えた。


本当はそんなのはイヤだ!

もっと覚醒が良くなって、意思の疎通がもう少し出来るようになって、口から物を食べられるようになる。寝たきりでも左片麻痺のままでもいい。そして、うちに連れて帰ってまた四人で暮らす!


これは希望、期待なのかもしれない。でも可能性は0ではない!と強く思っていた。


そして、お父さんのところへ。

病室に入って驚いた。

両目にガーゼを貼られ、口にはマスク。

えっ?なに?

しかもマスクはお父さんが口を動かすから下に下がってマスクの上部分が口の中に入ってた。

私はすぐに外した。

看護師さんに理由を聞くと、目も口も乾くので。

お父さんはだいたいは目を閉じてます!口は開いてることが多いけど、マスクが口に入って意味がないし息苦しいと思います!と言ってやめてもらった。


お父さんに

ウォークマン聴く人、手あげて〜』

と言うとお腹の上に置いてる手を上げた(^-^)

片耳づつ二人で聴いた。


お父さんを見ているうちに、こんなに古くて汚い病院にしか入れないこと、リハビリをたくさんしてもらえないことが申し訳なくて、かわいそうになった。

『お父さん、いつか一緒に暮らそうね。お母さんの治療が終わって、もう少し広い所へ引越して、まだ先になっちゃうけど、ごめんね』と泣きながら言った。

そしたら…

お父さん、眉間にシワを寄せてクシャクシャの顔になって、握ってる手を離した。

離した手をゆっくり伸ばして、私の左の胸と脇くらいの所に手をかけた。

『なぁに?お父さん、お母さんの言ってること分かるの?分かるならトントンてして』

そしたら、トントントントンって。

その後もしばらく手をかけたままだった。私は涙が止まらなかった。

このことは今思い出しても泣けてしまう。

この日、帰ってすぐに私が手術後に履いた血栓予防の靴下を探して、同じ物を通販で注文した。


サヨナラまであと8日


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