生きているキセキ 〜The miracle of being alive〜

私と娘、息子、そして天国の夫のハナシ。

回顧録 2012.4.25 転院

お父さんの転院の日だった。

私は10時過ぎに病院に行った。

お父さんはいつも、寝てる訳ではないけど目を閉じてることが多い。

でも、この日はパッチリと目を開けていた。

多分、朝から看護師さんやヘルパーさんに転院のことを言われてたからだと思う。

ちゃんと分かってたんだ。

『おとーさん、おはよー』と顔を覗き込んで言ってみた。

そしたら、深く息を吸い込んだのだろう、お父さんの胸が大きくゆっくりと膨らんだ後『おはよー』と小さな小さな声がした。嬉しかったな。

お父さんは動く右手で、すぐに経鼻のチューブを抜いしまうため、右手だけミトンを着けていた。

私がそばにいる間は外してあげられる。

出発は13時

それまで荷物をまとめたりしながらお父さんにずっと話しかけてた。


これ何本?クイズ

お父さんの目の前に私が指を見せて、『これ何本に見える?』と聞く。

今日は覚醒状態が良いと思ったので、クイズをやってみた。

『これ何本?』と二本、指を立てて見せた。

そしたらお父さんが三本、指を立てた。

『はい、ハズレ〜』

『じゃあ、これ何本?』と三本、立てて見せたら二本、指を立てた。

『ざんね〜ん!三本でしたぁ』

でもね、何本かハズレても私の質問をちゃんと理解出来てるってこと。それが嬉しかった。

それに、倒れて以来、目も炎症を起こしていて、良く見えない状態だから、多分ぼやけて分からなかったのだと思う。以前、写真を見せた時に見える?って聞いたら、首を振ったこともあったから。


転院先への移動は介護タクシー

前もって予約をしていた。


私は看護師さんやヘルパーさん達に写真と手紙を持って、病院中をお礼しにまわった。

挨拶する度に泣いてしまって。なんせ9ヶ月もお世話になって、皆さんとても良くしてくれたから、感謝の気持ちとお別れする寂しさでいっぱいだった。

病室に戻ると介護タクシーの人がいた。まだ12時。

13時に転院先に着だと思っていたらしい。

慌てて準備をして、お父さんはストレッチャーのまま寝た状態で乗った。

この病院は河川沿いにある。

この日は河川敷一面に菜の花が満開だった。

タクシーの中で、

『お父さん、みて!菜の花すごいよ!』

と言うと、ゆっくり顔を窓の方向へ動かした。

私はお父さんに話しかける時は手を握ってはなしてた。経鼻を触ったり、ほっぺに爪を立てたりするのを防ぐ為もあるのだけど、握ったりさすったりしながらの方が分かってくれそうな気がしたから。

こんなにもお父さんの手や顔や髪に触れたのは、お父さんが倒れてからしかないと思う。


一時間で転院先へ着いた。

古くて薄暗くて、始めからあまり良い印象はなかった。

主治医と色々な話をして、帰る時『お父さん、帰るね。またあさって来るから、バイバイ』

そしたらお父さん、バイバイしてくれた。

こんなにも元気なお父さんが死んでしまうなんて、この時は夢にも思っていなかった。


サヨナラまであと10日…



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